カァ・・・カァ・・・・バサバサバサ



「ん・・・・・カラスさん?」

聖者の渓谷、その中の洞窟から出てきた所だった女エルフの元に一羽のカラス。

「どしたーカラスさんー。ボクおやつは持ってきてないぞー?」

手を差し出すとその上にチョンとカラスは降り立つ。

『私だ。ハーディンだ。』

「うわっびっくりしたーーー。こんにちはハーディンさん。」

カラスから発せられた声にびっくりしながらも挨拶をするテンプルナイト・風谷ヨハネ。

『オノエルさんの居場所はこちらで見つけた、ヨハネスから我私塾へ来るようにとの事だ。

すぐに着なさい。』

ハーディンのその言葉にカラスに詰め寄る。

「ホントに?!オノエルは無事なんですか?!」

『今の所は問題ない。私も様子を可能な限り監視している状況だ。とにかくこちらへ。』

「よかったぁ〜・・・分かりました、すぐ行きます!」



   バサササ



ヨハネの返答を待ってからカラスは飛び立つ。それを少しの間見送り帰還スクロールを開き

私塾へと急いで向かい始めた。











   〜その頃のオル〜

「だーーーー!!!!この幼女誘拐犯!ロリコン変質者!!!!出せえええええええええええええ」

頭から袋をかぶされた挙句、手足を縛られ、さらに箱詰めにされて

船と思われる揺れの中長時間運ばれ、

やっと頭の袋をはずされたと思ったら今度は牢屋らしき場所の中で

薄暗いわ埃っぽいわでイライラしながら暴れていた。

「ぜぃ・・・ぜぃ・・・一体なんなのおおおおおお!!!!!!!!!!!」

あの日、ルゥンで片羽の妙な男に声をかけられ、必死の抵抗虚しく拉致されたわけだが

特に危害を加えられるわけでもなく監禁されている状況にも納得がいかなかった。

「もー・・・オルちゃんお腹空いたよぉ・・・・・・。」

そう、牢に備え付けられてあるベッドに倒れこむと外から声がする。

「分かった。少し待て。」

 カツ・・・カツ・・・カツ・・・・・

足音と共に牢の外の気配が遠のく。

「・・・・・オノエルさん、オノエルさん聞こえてる?ここどこ?」

その隙にダメ元で自分の中に眠る、忘れられた神に呼びかける。

「やっぱり答えてくれないか・・・・・・」

しょんぼりしながら考える。

自分に声をかけた時、『ラピス・オルフェウスの娘』そう確認していた。

母であるラピスはオルフェウス一族の生き残りではあるが、もう数百年も前に没落した一族。

となると、先代の『オノエルの揺り篭』であったというくらいしか思いつかない。

だけれど、『揺り篭』については忘れられた歴史でしか語られてはいない上、

セイクレッドの一族の初代・・・ヤルダバオトのみが隠し続けてきた歴史。

揺り篭本人でさえ、ずっと知らされずオノエルの代になって、ヨハネやセイクレッドと巡りあったことで辿り着いた

真実。

第三者が知り得る手段は限りなく0に等しいはず。

『仕方ない・・・・ただの幼女のフリでなんとか誤魔化してここから出る方法考えよう・・・。

オルちゃんの指輪落としてきたから誰かが気づいてくれるといいんだけど・・・。』

そう考えながら自分のベルトにかけてあるチェーンを見る。

本来ならこのチェーンには3つの指輪が通してある。

オルの両親が生前、家族の証として作った指輪。

両親亡き今その3つ全てをオルはお守りとしてずっと持ち歩いているのだが

拉致される寸前、自分の指輪だけ器用にその場に残してきていた。

カタン・・・

オルがそんな事を考えていると牢の前にいつの間にか戻ってきた獄吏が食事の乗ったトレイを中に

入れてきた。

「食事だ。」

上に乗せられているのは質素だがちゃんと栄養のバランスの取れた食事。

「ありがとぉ。」

それを受け取りベッドの上で食べ始める。

「量は足りるか?」

牢の外から獄吏の女性が言う。

「大丈夫、ありがとーおねーちゃん。」

その言葉には返答はないが再び獄吏が同じ場所に戻った気配を感じる。

オルはご飯を食べながら心の中で呟いた。

『とにかくこの誘拐犯のボスの話を聞いてからだにゃ・・・』